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徐州沛県に一群の山あり。芒と湯の地に連なる山を、人は芒湯の山と呼ぶ。すなわら、秦末、漢朝の高祖・劉邦が反逆者として立てこもった山──王の地である。
しかし、今や、山はさびれ、荒れ果てて、山腹に一古道観を遺すのみ。聞こえるものは、風の音、松籟の声、そして、嫋々と尾を曳く猿嘯のほかは、ない。

その崩れかけた道観を見下ろす峰に、一人の男が立っていた。

身には鋼の鎧をまとい、背には二十四本の飛刀を担う。男は、狙いすましては飛刀を放った。ひとつ放っては、しばし考え、また放つ。右へ、左へ、上へ、次には大きく体を捩って背後へと。放たれた飛刀は風を切り、狙った葉へ、梢の枝へと、あまたず当たった。
「いい腕ねぇ」
破れ塀にもたれ、女が焼き栗を噛んでいた。女武芸者に扮した白骨猫だ。
「だけどもさ、そうのんびり投げてちゃ、稽古にはならないよ」
「これは稽古ではない」
「じゃあ、なにさ」
「考えている」
「なにを?」
白骨猫は小首をかしげた。男──“八臂那托”項充は、女の顔を一瞥した。
「お前は、飛刀を使うか」
「使わないわ」
「ならば、分からん」
「ふぅん」
さして興味もなさそうに、白骨猫は栗を高く放り投げ、ぱくりと口で受け止めた。
「それより、あんたたちの“魔王”は、あたしの話を信じたの?」
曽頭市を後にした白骨猫は、梁山泊を不倶戴天の敵とする芒湯山の“混世魔王”樊瑞に、「晁蓋戦死」の報をもたらした。この機にと、曽頭市と芒湯山の共闘を申し出たのだ。手を結んで梁山泊を討つ、という提案は、かつて曽索からもあった。しかし、結局、樊瑞は承諾も拒絶もせず、静観の姿勢をとった。
(樊瑞が曽頭市の実力を試すつもりだったのなら、今度こそ、飛びついてくる)
白骨猫はそう読んだ。
“魔王”はたしかに得体が知れない。
しかし、樊瑞の両腕である項充、李袞は、梁山泊に闇討ちされ瀕死の重傷を負った。その疵はようやく癒えたが、復讐の念は増しているはずだった。
「一体、いつ出陣するのさ」
「それは“魔王”が決めることだ」
項充は静かに答えた。白骨猫はちらりと男の顔を見上げたが、項充の表情はまったく読めない。穏やかなようにも見え、冷やかなようにも見える。その捉えどころのない目が、つと大銀杏の梢へ動いた。
「戻ったのか、李袞」

ざわざわと枝が揺れ、一匹の──もしくは一人の異相の男が枝を伝って下りてきた。左腕だけを巧みに使い、その敏捷な動きは飛ぶようだ。その周囲には、金毛の猿が十匹あまりも従っている。白骨猫は目を見開いた。
「こいつは、人間? それとも猿なの?」
「人間だ」
項充は、李袞は猿に育てられた子供なのだと女に教えた。おそらく、子供を失った母猿にさらわれて、養われたものだろう。項充が森の奥でみつけ、連れ帰って育てた。その時、十二、三歳ほどに見えたが、人間の言葉は話せなかった。みつけた時、李の実を齧っていたので、姓を李とした。
「へえ」
白骨猫は物珍しそうに李袞の姿を眺め回した。右腕に大きな疵がある。治ったばかりだ。梁山泊に闇討ちされた時の疵だと、項充が説明した。李袞は黙って、女の顔をみつめている。その肩には、小猿がちょこなんと座っていた。
「そら、おいで」
白骨猫は子猿に食べていた栗の実を差し出した。しかし、猿は後ずさり、女に向かって歯を剥いた。
「いやな子」
白骨猫は眉を潜め、栗の実を噛み砕いた。
項充は李袞とともに道観に戻っていった。
山道を降りながら、項充は冬枯れた山の風景を見渡した。
最初、この山に来ようと言ったのは、項充だった。沛県は彼の故郷だ。十数年もどっていなかったが、土地勘があった。
彼は、故郷では名の知られた男だった。
項充が子供の頃、飛蝗の害で飢饉があった。県民の半数が飢え死にするほどの飢饉だった。この時、項充は親に売られた。人買いから、また芸人の一座に売り飛ばされた。辛い訓練の日の始まりだった。狗のように扱われ、暮しは狗よりもひどかった。大勢いた仲間の子供たちは、ほとんどが逃げ出したり、竿上りの訓練中や、親方に殴られて死んだりした。項充は、耐えた。弄剣の技に才能があり、習練して達人の域に達した。十年後、一座は故郷の近くを通り掛かった。
項充は一座を抜け出し、家に帰った。自分を売り飛ばした両親を殺すつもりだった。しかし、親はいなかった。隣人が、項充が売られた翌日、二人して首を吊って死んだと教えた。
項充は家を後にして、あてもなく村を歩いた。地主の家の前に、大勢の村人が集まっていた。項充のことを覚えている者もいた。
「蝗の害で麦も稗も少しもとれない。地主の蔵には辺りから買い占めた食い物が唸っている」
村人たちは固く閉ざされた扉を叩いた。項充は、門前の獅子の頭を踏んで、塀の上へ飛びあがった。軽業を身につけていた。その手には、短刀が握られていた。
興行の時は、板の前に立った人の体に当てぬように飛刀を投げる。しかし、項充はずっと、心の中では人を射てきた。阻止しようとする使用人たちを、次々に射た。逃げようとする地主の顔にも、飛刀は吸い込まれるように突きたった。
項充は飛刀の突きたった首をもって、門を開き、外にでた。廃屋にとなった家に戻り、両親が首をつったという梁の下に首を置き、叩頭して、村を去った。
村を離れた項充は、各地をさまよい、李袞と出会い、樊瑞と出会った。そして、故郷に戻ってきた。
長い年月を経て、故郷の人々のあいだで項充の名は半ば伝説となっていた。
その項充が、再び、今度は“神人”を連れて戻ってきたのだ。
折しも、ふたたび飢饉が起ころうとしていた。住民たちは、最後の鶏やかき集めた雑穀をかついで、山に向かった。
項充は、自分が人々にどう思われているかなどには、興味がなかった。しかし、樊瑞の考えは別にあった。樊瑞は項充に若者たちを率いて近隣の富豪を襲わせ、食料を奪って人々に与えた。さらに樊瑞自身が符を焼いて村人の病を治したり、小さな瓶から十石の米を取り出すなどして、人々の崇敬を受けた。
今、さびれていた山は、ひそかに活気づきつつあった。山に住み着いた若者が三百人あまり。そのほか、近隣には樊瑞を信奉する三千余の村人がいる。彼らは樊瑞を神仙のように崇めていた。
「山に“樊聖王”がみえてから、朝夕、紫の気が峰にかかる」
そんなことを言う者がいた。
「漢の劉高祖の生まれ変わりだと言うぞ」
まことしやかに流布された噂には、樊瑞がみずから流したものも混じっていた。
今、樊瑞は古道観の主殿・玉清宮の玉座に座り、天子のごとくあたりのものを睥睨している。その両側には、香炉や剣を捧げ持った金童玉女がずらりと並んでいた。

「曽頭市の使者は、我等に梁山泊を攻めろと言う」
樊瑞ははるかな玉座から項充を見下ろした。
「“八臂那托”よ、どう思うか」
項充は白骨猫が晁蓋戦死の知らせをもたらしてから、その真偽を慎重に調べていた。曽頭市では、確かに晁蓋が矢に当たったと証言する者がいた。しかし、晁蓋の遺骸を見たという者はなく、梁山泊軍が帰還した道筋においても、喪のしるしを見た者はいなかった。
「やつらを侮ってはならぬ。晁蓋戦死は、虚報かもしれぬ」
樊瑞の顔に、人の魂を凍らせるような笑みがよぎった。
「これを見よ!!」
項充は目を見開いた。樊瑞の手には、真新しい位牌が掴まれていた。黒漆に金泥の文字。
『梁山泊主天王晁公神主』
「それは」
応じるように李袞が吠えた。梁山泊の偵察に赴いた李袞は、潜入が不可能と分かると、猿をして湖を泳ぎ渡らせたのだ。猿は梁山泊に潜むこと十日余り、ついに晁蓋の位牌を盗み出して戻ったという。
「梁山泊の天命は尽きた!!」
“混世魔王”は立ち上がり、腕をつきあげ空の一角を指さした。
「将星は、梁山泊の空に堕ちた!!」
突風が巻き起こり、玉清宮を、芒湯の山を揺り動かした。
その時、ふいに堂の扉付近からざわめきが起こり、人垣が二つに分かれた。その間を、一丈余りもあろうかという純白の大蛇が玉座をめざして進んでくる。喉元が不自然に膨らんでいた。蛇が牙をむき出すと、喉の奥でうごめいているものがあった。金色の毛並み──喰ったばかりの猿だった。
項充は飛刀を掴んだ。が、それより早く、樊瑞は剣を抜いて白蛇の首をさっと払った。
「瑞祥だ!!」
若者たちが口々に叫んだ。
「漢の高祖は芒湯山に白蛇を斬って帝位に就いた。樊瑞様はまさしくその生まれ変わりだ」
「樊聖王、樊聖王!!」
玉清宮に歓呼の声が轟いた。
地面には、首のない蛇体がのたうっている。今しも山道を駆け登ってきた見張りの男が、その蠢く蛇体を踏んで、樊瑞の前に跪いた。
「麓に軍隊が来ています」
「官軍か」
項充が尋ねた。芒湯山の名は近隣に響きはじめている。邪教の徒として討伐軍が起こされることも考えられた。
「違います」
見張りの男は首を振った。
「梁山泊です」
「俺の“白公子”が戻ってこない」
馬上で楊春が呟いた。

“白花蛇”楊春は雌雄の白蛇を飼っている。雄を“白公子”、雌を“白公主”という。朝方、卵を孕んでいる白公主のために、餌を獲りに出た白公子が戻ってこない。
「そのうち戻るさ」
史進は笑った。その目が、芒湯山の山腹へ、鋭く動いた。木々の間から蠢くものがかいま見えた。
「来たぞ!!」
梁山泊軍の先頭に、紅の戦袍に身を包み、赤毛の駒に跨がる“九紋竜”史進が躍り出た。手には三尖両刃の刀を握りしめている。その両翼には、虎と蛇、すなわち“跳間虎”陳達と“白花蛇”楊春が控える。さらに、中軍を指揮する“神機軍師”朱武がいた。
芒湯山の兵、わずか三百。
史進は三尖両刃をかざし、敵陣めざしてまっしぐらに駆けていった。
空は、掃き清めたような晴天だった。冬の日差しが鋭いほどに降り注ぐ。そのもとを、芒湯山三百の兵は一丸となって梁山泊軍めざして突進してくる。いずれも頭に黄色い布を巻き、額には紅の紋章が刻まれていた。
「魔王はどいつだ?」
華州で牢に捉えられていた史進は、“混世魔王”を見ていない。問われた陳達は敵陣を見回した。禍々しい魔王の姿は、決して見忘れることはない。
「ここにはいねぇ」
「よし!!」
軽く当たろう──史進は馬に鞭打った。その時だった。
「金光顕現!!」
空から響いた声とともに、魔王の軍が二つに割れた。そのただ中に、巨大な火柱が突き上げる。燃え盛る紅蓮の火の中に、ひとりの男が立っていた。
「魔王だ!!」

陳達が叫んだ。まさしく、“混世魔王”樊瑞に違いない。逆立つ髪、額の刻印、首には流星錘をかけ、手には宝剣を掲げている。

「樊聖王!! 樊聖王!!」
人々の声がこだました。響きわたる声の中で、樊瑞は剣を持たぬほうの手を振り上げた。その手から遙かな中天に向け、おびただしい霊符が舞った。呪言が響いた。
「“北方真武大帝”!! 神位降臨!!」
雷鳴が空を切り裂いた。
おお、と誰もが感嘆の呻きを上げた。首を伸ばし、目を見開いて、中天に立ちのぼっていく霊符を凝視した。彼らの瞳を、まばゆい光が貫いた。
幻術を破るものは、穢れ──すなわち、糞尿、経血、狗の血などといわれている。梁山泊の兵士たちは皆が額に狗の血を塗り付けていた。そうすれば、幻術に惑わされない。そのはずだった。
が、いま、一瞬の閃光を浴びた彼らの目には、中天に達するまでの大神将、“北方真武大帝”の姿がはっきりと見えていた。ざんばらに振り乱した髪、赤脚、そして漆黒の甲冑は、廟で見る姿と全く同じだ。きらきらと光り輝く目を剥いて、手の大剣を振り上げる。その周囲には、無数の神兵が蝶のように飛び交っていた。

驚きとも、悲鳴ともつかない叫びが上がった。混乱する梁山泊軍に神兵が襲いかかる。その数は、いまや三百どころではない。何千、何万……地から天から、おなじく黄色の布を巻いた兵士が怒濤のごとく押し寄せた。
史進は三先両刃を奮って、神兵をなぎ払った。彼は神仙も幻術も信じていない。いま、ここに見えているものが、なんなのかは分からない。しかし、敵であることは確かだ。史進は容赦なく神兵を斬り捨てた。手応えがあった。顔に浴びた血飛沫は、人間と同じ温度をもっていた。
(これは、幻だ)
思うそばから、神兵が天空から襲いかかる。翼もないのに空中を自在に飛び交い、斬り払うこともできない。神兵があまりに多くて、陳達の姿も、楊春の姿も見えなかった。
後方にいた朱武は、友軍が恐慌をきたし、戦うこともできずにいるのを目の当たりにした。華州の時とはくらべものにならない。あれは、魔王にとってはほんの遊び程度の技だったのだ。梁山泊の兵士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げまどっている。朱武は退却の銅鑼を打たせたが、誰の耳にも届かないようだった。
楊春は神兵と戦いながら、陳達が槍を奮って神兵と戦っているのを見た。いや、それは神兵ではなかった。猿のような、人間だった。神兵を従えて、飛ぶごとくに陳達と渡り合っている。戦う二人の周囲には、びっしりと飛神兵が集まっていた。助けようと楊春は馬を飛ばした。その頭上に、怪しい呪文の声が響いた。
「混元六天伝法教主、真武霊応、鎮天助順、全闕化身!!」

楊春の目前に、剣を振り上げる神の姿が聳えていた。その剣は燃え盛る漆黒の炎に包まれている。神の剣が楊春の体をわずかにかすった。楊春の体が大きく傾き馬から落ちた。その拍子に、懐の“白公主”がこぼれて地面に落ちた。蛇は鎌首をもたげ、神にむかって牙を剥いた。一瞬、楊春の目から神将の姿が消えた。楊春は我に返り、蛇を懐に戻すと再び馬に飛び乗った。
朱武は銅鑼を鳴らし続けていた。その音が、ふいに変調した。その途端、戦場にいる梁山泊軍の馬たちが、いっせいに反応を見せた。
朱武は、銅鑼を打ち続けさせた。
馬には幻術はきかない。その銅鑼の音は、馬たちに“撤退”を命ずる銅鑼だった。朱武が考案し、段景住に訓練させたのだ。今、馬たちはそれぞれの主人を乗せたまま、一目散に自陣に向かった。恐慌をきたした兵士たちもまた、馬の後を追いかけるようにして戻りはじめた。
退却していく梁山泊軍の背には、魔王の哄笑が響いていた。
史進が戦場を振り返ると、その空にはただ蒼天が広がり、大地には、梁山泊軍の戦死者が横たわっているばかりだった。
「助かったぞ、朱武」
史進は馬に導かれ、陣に戻った。
「“魔王”を名乗るだけのことはある」
史進は、今でも自分が見たものが信じられなかった。
梁山泊軍の戦死者は、殆どが飛刀、もしくは飛鎗に倒れたものだった。ただ恐れおののいている間に、項充、李袞の飛び道具を浴びたのだ。死者の中には、人間である敵兵と、金色の猿の死体もいくつか混じっていた。神将も神兵も、すべて幻であったのだ。
「幻術というものを、少し甘くみていたようだ」
「ほう、さすがの“九紋竜”もお手上げだな」
史進は肩をすくめて笑った。
「俺も一応、人の子だからな。目と耳に蓋をして戦うしかないだろう」
「それは名案だ」
「今日はこの馬に助けられた。馬の耳に念仏とは、よく言ったものだ」
史進は馬を水飲み場に連れて行き、赤毛の首をぽんと叩いた。
「明日は馬に刀を持たせるか」
「それも、名案だ」
珍しく朱武が笑った。
「今日のところは、ゆっくり安め」
朱武は晴れ渡る冬空と、その下に青く聳える芒湯山を眺めた。その横顔は、平生、書斎にいる時となんら変わりないものだった。

翌日、戦いは再び芒湯山麓にはじまった。夜明けから振りだした雪は止みつつあったが、空はどんよりと曇っていた。
「幻術日和だ」
山頂の廟で、樊瑞はほくそ笑んだ。昨日の戦いはほんの小手調べに過ぎない。恐怖に凝り固まった敵の心を、今日こそ踏みつぶし、神兵によって蹂躪するのだ。その勢いで、梁山泊へと侵攻する。芒湯山に魔王の哄笑が響いた。
一方、魔王の軍が山を降ってくるのを認めた朱武は、全軍を麓の平野に配置した。奇妙な形の陣だった。千人の兵が百余人ずつ八つの部隊に分けられて、四面八方に散開した形を作る。朱武はすべてを見下ろす高台に、七星の旗を掲げて立った。
「来たぞ!!」
戦鼓が鳴り響いた。芒湯山から魔王の軍が麓へと駆け降りてくる。砂煙が辺りを覆った。先頭には項充、李袞。そして神兵。後詰めに樊瑞が控えている。
樊瑞は一気に兵を突入させた。同時に朱武の七星の旗が振られ、銅鑼が轟く。それに応じて、八つの部隊は大きく左右に旋回した。
「天地風雲!!」
八つの陣がめまぐるしく動き、二つに別れる。
「竜虎鳥蛇!!」
さらに複雑に変化して、八つの部隊は魔王の部隊をその中に取り込む形となった。
「これは!!」
樊瑞の顔色がはじめて変わった。
「“九天八卦陣”!!」
伝説の神陣である。
はるか古代、西王母が人面鳥身の女神・九天玄女をして、黄帝に遣わした伝説の兵法書『陰符経』。そこに記されていたという、無敵、幻の神陣なのだ。孫子に伝わり、蜀の諸葛武侯を最後に失われたと、巷間では言い伝えられてる。今の世に、この陣を使える者はないはずなのだ。
「指揮をとっているのは何者だ!!」
樊瑞には知るよしもない。“九天八卦陣”は宋江が九天玄女廟で得た三巻の天書のうち“地の巻”──兵法書に記されていたものなのだ。史進らの出陣にあたり、呉用がそれを書き写し、朱武に与えた。
各地に放った間者により、呉用は樊瑞らが梁山泊を狙うと知った。時を経ずして、晁蓋の位牌が金毛の猿に奪い去られるにおよんで、呉用はもう一人の軍師、朱武に諮った。朱武は華山で魔王を見て、その手腕を知っている。
晁蓋の位牌を取り戻し、芒湯山の機先を制べく、“神機軍師”朱武は出陣した。
出発の朝、呉用は一枚の図を朱武に渡した。朱武には、それが何の図面が一目で分かった。しかし、それは布陣図のみで、今や具体的な用法を知っている者はない。
「あなたならば、使いこなせるかもしれない」
呉用は、そう言った。
公孫勝は動かず、呉用が梁山泊を離れられない今、梁山泊の命運は八卦陣の秘法とともに軍師・朱武に託されたのだ。
八人の部隊長に率いられた梁山泊軍は、朱武の意のままに動いていく。梁山泊軍は生き物のように動き続け、芒湯山の兵士たちを取り囲む。
樊瑞は宝剣を引き抜き、魔符を手にした。
「神兵佑我!! 兵火満天!! 急急如律令!!」
樊瑞は神兵を召還すべく、魔符を天空に投げあげた。朱武はそれを見逃さなかった。
「長蛇の陣!!」
梁山泊軍が大きく左右に展開していく。樊瑞は符を蒔きながら、そのただ中へ突入した。目は炯々と輝き、額には血紋が浮かびあがっている。
樊瑞は両手に剣訣を結び、呪言をとなえた。
「天蒼々地蒼々、衆神在前、百千万億、驚天動地、呼風喚雨、至金剛神、至雷霆将、霹靂光芒!!」
魔王の声は雷鳴のごとく鳴り響き、戦場にいるすべての人の耳を襲った。不可思議な抑揚をもった禍々しい言霊は、耳から入り、鼓膜を震わせ、脳髄のなかにしみ込んだ。魔王の声を聞いた人々は、己の心、魂の中に、荒ぶる百億の魔神を見た。
朱武もまた、魔王の呪声を聞いていた。
「砲を撃て!!」
朱武は命じたが、答えはなかった。
「砲手!!」
砲手は頭を抱えてうずくまっている。朱武は駆け寄り、落ちていた松明を拾ってみずから砲に点火した。

轟音が轟いて、砲弾が空に放たれた。砲弾は空中で十の中弾に分かれ、さらに百の小弾に分散した。これこそ“轟天雷”凌振が創り出した“連珠砲”である。その轟音に魔王の声はかき消された。
梁山泊の兵たちは我に返った。そして、朱武が唱える破邪の呪文に、梁山泊の兵士たちは一斉に声を和した。
「臨兵闘者皆陣列在前!!」
呪文には力はなくとも、その精神の凝縮が、彼らを呪縛から解き放った。再び八陣の動きが戻った。取り囲まれた芒湯山の兵たちは、次々と斬られ、突き殺されていった。
魔王は呪符を取り出した。人形に抜かれた呪符が、吹雪のように舞い上がる。その数は空中でみるみるうちに数を増し、戦場の空を覆った。今、梁山泊軍の兵の目には、漆黒の真武大帝に率いられた、数千、数万の神兵が見えていた。
「次!!」
朱武は旗を大きく振った。同時に、戦場を取り巻く草原から轟音が轟いた。一瞬、大きな火の手が上がり、もうもうと黒煙が湧きだした。煙は瞬く間に空にたちこめ、人々の視界を奪った。
「術が消える!!」

樊瑞は空を覆う黒煙を睨んだ。煙は空に聳える神将の姿も、空から襲いかかる神兵も、人々の目からかき消してしまうのだ。その間に梁山泊軍が体勢を建て直し、再び芒湯山軍に襲いいかかった。
項充は樊瑞のもとに馬を飛ばした。
「樊瑞、撤退だ」
「まだだ!!」
樊瑞は護符を投げ捨てた。
「“混世魔王”をなめるな!!」
樊瑞は戦場を睥睨した。火薬はまだ爆発を続けている。煙と轟音、八卦陣に翻弄され、戦に慣れぬ芒湯山の兵たちは混乱している。樊瑞は流星錘を手にとった。
樊瑞の流星錘は最初の師父から習ったものだ。人並みはずれた術を身につけながら、師父はなぜか人間の技にもこだわった。術なくして勝てない者に、術は蟷螂の斧だと言った。
「ここはわしが引きつける。お前は退路を確保しろ」
「分かった」
八つの陣は銅鑼に応じて縦横無尽に変化して、どこにも逃げる道はない。が、項充は一角に僅かな隙をみつけた。項充は槍を手に左右に敵を切り開き、その間隙へと飛び込んだ。
「続け!!」
項充と李袞は、ただ一つの退路を敵を斬り払いながら走った。敵は幾重にも重なる幕のように、次から次へと現れる。背後からは楊春、陳達が凄まじい勢いで追ってきていた。しかし、やがて迷路のような陣が途切れた。彼方に、灰色に広がる空が見えた。項充は馬に鞭うった。その前に躍り出た騎馬武者がいた。赤い甲冑、赤毛の駒。

「待ちわびたぞ」
「“九紋竜”史進か」

「手癖の悪い猿を退治に来た。盗んだものを返してもらおうか」
項充と李袞は史進に向かって一直線に飛び出した。次の瞬間、李袞の姿がかき消えた。李袞の馬が隠されていた落とし穴を踏み抜いたのだ。
(罠か)
この路は、退路ではなく「死門」だったのだ。項充は手綱を引き締め、思い切り馬腹を蹴って、陥穽の上を飛び越えた。同時に佩剣を引き抜いた。項充の背に、飛刀はあと一本しか残っていない。うち下ろされる項充の剣を、史進の三尖両刃が受け止めた。二人は激しく打ち合った。項充は八臂の名をもつ手練である。史進もまた、十八般の武芸を究めた男だ。めまぐるしく交わる武器の間に、火花が戞々と飛び散った。と、項充が史進の脇を鋭く突いた。史進が体を開いて避ける、その一瞬に、項充は素早く馬を返した。
「逃げるか」
史進は追った。二人の距離は二丈余り。項充の馬はぐんぐんと速度を上げていく。史進は馬に鞭打った。刹那、項充は手綱を投げ捨て、振り向きざまに飛刀を放った。最後の飛刀が風を切り、正面から史進の顔へ迫った。しかし、刃が顔を切り裂く寸前に、史進は辛うじて飛刀をはじき飛ばした。
その時、別の方向からもう一本の飛刀が史進を襲った。かわしきれずに、飛刀は馬の股を切り裂いた。馬が棹立ちになり、史進は地上に投げ出された。
項充が、顔を上げた。
「とどめを刺して!!」
白骨猫の声が響いた。
「項充!! とどめよ!!」
項充は懐から一本の飛刀を掴みだした。飛刀が項充の手を離れ、鋭く風を切り裂いた。

飛刀は史進ではなく、女の腕に突き立った。
「はめたな」
項充の声は、不気味なほどに平静だった。
「この八臂那托を、はめてくれたな」
「なんのこと」
女は飛刀を受けた腕をおさえて、瞬きもせず項充を睨みつけている。
「その飛刀に見覚えがあるはずだ」
白骨猫は腕の飛刀を引き抜いた。項充のものではない、銀柄の飛刀だった。
「甘くみてはいけない。飛刀は、使う者によって、太刀風、角度、肉を断つ強さまで、すべてが違う。お前も飛刀を使うならば分かるはずだ。今、あの夜と同じ風を聞いた。我等を襲ったのは、お前だな」
項充は手にした剣を逆手に握るや、白骨猫に向かって放った。女の顔に、嘲るような笑みがよぎった。白骨猫は短刀で項充の剣をはじくと、馬を返して駆け出した。
「梁山泊の方々!!」
項充の声が戦場に響きわたった。
「我らが戦う理由はなくなった!!」
叫ぶや、項充は白骨猫の後を追いかけていった。
嵐の過ぎ去った戦場には、神兵の死体が累々と折り重なっていた。
魔王の兵は八卦陣に取り込まれ、寸断されて、半数近くが殺された。彼らはみな黄色い布を頭に巻き、額に血紋を書いていた。しかし、やはり人間であり、死んだ今は、ただの死体にすぎなかった。残りの殆どは、捕虜となった。
「魔王どもを逃がしたのは、残念だな」
陳達が死体の間を歩きながら、楊春に言った。楊春の血色の悪い顔は、曇天の下にさらに青白く見えた。
「陥穽に落ちた仲間を助けるどころか、その上を踏み越えて逃げるとは、まさしく魔王だ」
樊瑞、項充、李袞のうち、死門の陥穽に落ちたのは李袞だけだった。
項充は戦場から斬り抜けて、夜になるのを待って山に戻った。女は見失っていた。あの混乱の中から逃げおおせるとは、おそるべき手腕といえた。
山に戻ると、項充は玉清宮に向かった。山はしんと静まり却っていた。若者たちは一人も戻って来ておらず、樊瑞だけが、何事もなかったかのように玉座の上で瞑目していた。
「臆したか、項充」
樊瑞は、目を見開いた。
「なぜ、戦をやめた」
「我々が梁山泊と戦う理由は、なくなった」
項充は、李袞を襲ったのは梁山泊の“撲天鵬”李応ではなく、白骨猫だったと告げた。
「我々を闇討ちしたのは、あの女と、仲間だ。我等と梁山泊を敵対させたかったのだろう。曽頭市も、一枚噛んでいるかもしれぬ」
もう戦う理由はない、と項充は言った。しかし、樊瑞の表情は変わらない。項充の胸を、得体のしれぬ不安が過った。項充は言葉を続けた。
「我々が戦う意味はない」
「我等の国を諦めるのか?」
「なに」
「誰にも支配されぬ、我等の王国を、諦めるのか? お前は、自由であるために、強くありたいと願ったのではなかったか?」
「それとこれとは話が違う。今は、これ以上、戦うのは無理だ。兵もない」
「そうかな?」
樊瑞は立ち上がり、項充の背後を指さした。時刻は、真夜中である。開け放たれた玉清宮の扉の外には、無数の青い灯籠が灯されている。樊瑞が術を使う時に用いる魔の光だ。前庭は、湖のような青い光に満ちていた。その中に、大勢の人が蠢いていた。

続々と集まってくる無数の人々……青い光に照らしだされた数百人、いや、数千人の人間だ。老若男女、どれも近隣の村の人々だった。誰もかれも黄色の布を巻き、額に血の紋章がある。
連年の蝗害に飢え、疲れきった人々だった。項充の知っている者もいた。彼の生まれた村の老人や子供まで混じっていた。
「彼らは兵士ではない。戦えぬ」
「神兵は死を恐れぬ。喜んで戦い、死んでいくのだ。死ねば、尸解して神仙になる。飢えもなく、憂いもない、永遠の命を得られるのだからな!!」
「樊瑞!!」
「王の名を呼べ!!」
項充は口をつぐんだ。そして、黙って樊瑞に背を向けた。
「どこへ行く」
項充は答えなかった。玉清宮の外に出て、人々に向かって言った。
「みな、村に戻れ」
しかし、返事をする者はなかった。みな虚ろな目を奥殿の樊瑞に向けている。青い光の中に浮かび上がる人々の顔は、すでに死者のようだった。
樊瑞が笑うのが聞こえた。吐き気のするような声だった。
「無駄だ!! 神兵はわしの命にしか従わぬ!!」
“樊聖王”を讃える人々の声が波のように湧きあがり、夜の峰々にこだました。
「樊瑞よ」
項充は青白い闇の中に立ち、樊瑞を返り見た。その声は、いつものように、抑揚のない、ひどく静かな声だった。
「お前は、そんな男ではなかった。山に迷い込み、死にかけていた俺たちを、助けてくれた。それも、手下にするためだったのか?」
「そうだ」
こともなげに樊瑞は答えた。項充は、再び背を向けた。
「これまでだな、樊瑞」
項充は玉清宮を後にした。
「俺は、世界などいらぬ」
樊瑞がただ一人、薄暗い奥殿の中に残された。外では、まだ人々の声が続いている。人の波の中を、項充の姿が遠ざかっていく。
樊瑞は玉座に座り、黙ってそれを見送った。外から漏れる青い光が、その顔の一角にもちらちらと照り映えていた。
その夜、梁山泊陣中にも、終夜、消されぬ灯があった。
朱武がひとり、幕屋の中に端座していた。その前の卓上には、山のごとく積み上げられた書物がある。傍らには、灯心を切ったばかりの火が燃えていた。

朱武は、長年にわたって収拾した膨大な兵書を、今回の戦にすべて携えて来た。それを端から繙いた。同じ九天八卦陣が二度通じるとは思わなかった。さらなる強力な策が必要なのだ。しかし、答えは書物の中にはみつからなかった。
彼は万巻の兵書を読み、あらゆる陣形、軍略に通じている。その知識は呉用にも劣るものではないと自負している。しかし、どれほど頁を捲ろうと、書物の中に答えはなかった。
真夜中、朱武はついに立ち上がり、すべての書物を星空の下で焼き捨てた。知識はすでに頭脳の中にある。書物を捨て、朱武は八卦の陣図を心血を注いで眺めた。心を凝らし、五感を澄ませて、すべてを感知しようとした。古の軍学者たちの声が聞こえた。書物の言葉が聞こえてきた。無音のなかに、星の巡る音が聞こえた。やがて、それも聞こえなくなり、朱武は静寂の中で無心に八卦陣と対峙した。
そして、夜明け、ついに神機を得た。
翌日、正午。
樊瑞は兵を率いて山を降った。彼の後には、武器を手にした神兵が続々と続いている。
“樊聖王について戦えば、白日昇天することができる”
その噂は、一夜のうちに千里を走った。今や周辺の集落から人の姿は消えた。病人や歩けない者以外は、すべてが山に集まったのだ。
魔王は叫んだ。
「心願兵解、取命永劫!!」
死んで、永遠の命を得よ。人々の虚ろな声が、同じ言葉を繰り返す。
「心願兵解、取命永劫!!」
その声は峰々にこだまして、山麓の梁山泊軍にも届いた。朱武は七星旗を手に、兵に迎撃の配置につくよう命じた。山を下りてくる魔王の軍が目視できた。その兵数の多いことに、まず朱武は驚いた。
八卦陣の威力は、兵力の多いことをもって発揮される。今や、芒湯山の兵力は梁山泊を上回る。しかし、朱武はやはり九天八卦陣を敷いた。
流星錘を振り回し、魔王が馬を走らせてくる。羅刹の面をつけた魔の馬だった。樊瑞の流星錘は、まさしく流星のごとくに飛んで、梁山泊軍の兵士をなぎ倒した。一人、あるいはまとめて三人、頭を砕かれて吹き飛んだ。
阿修羅のごとく殺戮する魔王の前に、史進が飛び出していった。梁山泊の兵士たちが展開しながら後に続く。その正面に、神兵がどっと襲いかかった。神兵は死を恐れない。それどころか、求めているのだ。彼らは武器を振り上げ、十数人でひとりを取り囲み、憑かれたように敵をなぶり殺していく。目の前の仲間が殺され、自分の身が斬られても、その手を緩めることはなかった。傷をおい、血まみれになりながら、なおを敵を求めて前進していく。手を失い、足を失い、頭の半分を失っても、なお進むのだ。
「そうだ、進め!! 心願兵解、取命永劫!!」
魔王は笑った。
その声を蹴散らすように、激しい戦鼓が戦場の空をどよもした。梁山泊全軍が一斉に動きはじめた。その中心に立ち、朱武は七星旗を振り上げた。朱武が旗を振るたびに、陣は生き物のように姿を変えた。
『乾、坤、巽、震、坎、離、艮、兌』
八つの卦はそれぞれ陰陽、八方、天地風雷水火山沢に対応する。聖王の時代、人首蛇身の神・伏義が定めた神秘の符号。組み合わさり、変化して、この世の事物を象徴することができるのだ。形あるようで無形。無形こそが森羅万象。
「用兵も、かくのごとし!!」
朱武は七星旗を振り続けた。
「“九天八卦陣”をさらに発展させ、八八、六十四の変化をもたせた。名付けて“後天周文六十四卦陣”!!」
幻術が心神の作りだすものなのならば、自分もまた心神を凝らして戦うまで。朱武の振る旗に応じて銅鑼が打たれ、陣が生き物のごとくに変化する。そのすべての動きが朱武には分かった。敵がどう動き、自軍をどう動かせばよいのか。知識が血脈の中を駆けめぐり、血肉となって結びつき、一斉に華開くような恍惚を味わった。
“神機軍師”を名乗る男は、この日、はじめて神機のあることを知ったのだった。
梁山泊軍に数倍する神兵が、怒濤のごとく押し寄せる。
「無極星辰の陣を!!」
朱武がそう命じた時だった。空に黄金の雲が湧いていた。雲の中から、蝶のように神兵が飛び出してくる。魔王が幻術を使ったのだ。
「煙幕!!」
朱武が命じるや、火薬に火が放たれた。黒煙が立ちのぼる。が、煙が空に立ち込めたと思ったのは、一瞬だった。梁山泊軍が体勢を持ち直すより早く、一陣の風が戦場の上を吹き抜けた。無風であったはずの空に、風が出ていた。
芒湯山のあたりでは、午後になると必ず南の風が吹く。そのために、樊瑞は正午に攻め寄せたのだ。地の利は樊瑞にあった。今や煙は戦場から吹き払われた。ふたたび空には黄金の雲が輝き、神兵が天地に満ちた。
「止まるな!! 走れ!!」
史進は叫んだ。彼の目には、数万、数百万の神兵が見えていた。地平線まで続く敵の群れだ。幻だと思っても、それは、確かにそこに見えていた。
しかし、史進は刀を振るい続けた。たとえ敵が数万でも、数百万でも、それがなんだというのだ。戦えばよい。戦ってやる。
(王進師父が言っていた。“戦う時は相手の目を見ろ。もし、目を逸らしてしまうようなら、戦うな”“勝敗は、戦うより前に決まっているのだ”)
史進は真っ直ぐに海のごとき敵を見据えた。
(戦える!!)
思った瞬間、神兵の群れが視界にぼやけた。無数の紙の人型が降るのが見えた。それと同時に、誰かが叫んだ。
「援軍だ!!」
「なに?」
「梁山泊の旗が見える!!」
「おお、あれは!!」

樊瑞は馬上に伸び上がって彼方を見た。天を覆うほどの砂ぼこりが舞っている。その下には、確かに軍の姿がある。はためく旗は林のようで、おそろしいほどの大軍だった。樊瑞は眼を疑った。
「あれは晁蓋の旗!!」
輝く“替天行道”の旗。そして“托塔晁天王”旗。“及時雨 宋江”の旗もある。
「晁蓋、宋江、生きていたのか!!」
それだけではない。“双鞭 呼延灼”、“美髯公 朱仝”、“小李広 花栄”、“金鎗手 徐寧”、“没遮闌 穆弘”、“病尉遅 孫立”、“鎮三山 黄信”、錚々たる将の旗がずらりと並んでいるではないか。“九紋竜 史進”の旗を加えて八旗。色とりどりの旗は、それぞれ旗と同色の兵士を従え、八卦陣を展開する。変化は八八、六十四形。
樊瑞と神兵たちは今や完全に取り囲まれた。地平線まで続くような大軍だった。どこにも逃げ道はない。天地のどこにも、逃れでる隙はなかった。神兵たちは次々と倒れていく。瞬く間に、樊瑞の前に屍の山が築かれた。樊瑞は馬に鞭打った。入り乱れる敵と神兵の間を、逃げ道を求めて走った。戦場は迷路のようだった。道があると思えば、消え、消えたと思えば、また現れた。樊瑞は汗にまみれた。行けども行けども、陣からは出られなかった。
永遠と思える時間を、樊瑞は走った。やがて馬が泡を吹いて倒れた。樊瑞は投げ出され、流星錘も失った。人々の喚声や悲鳴が世界に満ちて、わんわんと響いていた。さまざまな色がぼやけた視界に入り乱れる。眼を閉じても、音も色も消えなかった。頭の中で何億もの人が一斉に旗を降り、喚いているようだった。
「天よ!!」
樊瑞は走りながら思わず叫んだ。その時だった。
「“魔王”よ、どこへ行く」
どこからか響いた声に、樊瑞は血走った眼を上げた。戦場を見下ろす岩に、一人の道士が立っていた。手には法杖、純白の髪が風にたなびく。
「貴様は!!」
樊瑞の目が極限まで見開かれた。
「入雲龍!!」

まぎれもなく梁山泊の一清道人、“入雲龍”公孫勝の姿だった。樊瑞は魔剣を抜いて打ちかかった。しかし、むなしく空を掠った。公孫勝の姿は目前から消え、樊瑞の背後に現れた。
「無駄だ」
公孫勝は背に負った松紋古定宝剣を引き抜いた。
「五雷天心の正法を見よ!!」
(星よ、儂を導け)
それは、彼が芒湯山に赴く前夜のことだった。
真夜中、公孫勝はひとり聚義庁奥にある晁蓋の殯屋を訪れた。小さな荷物を負っていた。彼は、梁山泊を去るつもりだった。
炉の前で呉用が眠っていた。
公孫勝は、呉用だけには梁山泊を去ることを告げていた。呉用は止めることもなく、ただ微笑しただけだった。史進たちが方術を使う者との戦いに赴いたことは知っていた。しかし、呉用はなに言わず、公孫勝も、語らなかった。
梁山泊を去ることは、ずっと以前から考えていたことだった。
(二仙山に戻らねばならぬ)
山に戻り、心神を煉り、術に見合う性を養わなければならない。
晁蓋の死は、そう決意するきっかけにすぎなかった。
かつて二仙山を後にする時、自分は龍だと信じていた。自分はすでに龍であり、さらなる力を身につけて、自由自在に雲間を飛翔する龍の王になるのだと。
しかし、巨大な力は、同時に巨大な枷となった。
(自由とはなんだ。自在であるとは、なんなのだ)
彼は山にこもり、自問した。答えなはかった。力は、すべてを奪うものに過ぎなかった。
(俺は龍ではなかったのだ)
それでもよい──と公孫勝は今は思う。
彼は教義の軛に反抗して山を飛び出した。そして、今や十分に世間を見た。人を見た。やりたかったことは、すべてした。もう、求めるものは俗世になかった。
(梁山泊は?)
と、呉用は問いたかったかもしれない。しかし、彼は問わなかった。公孫勝の答えを知っていたのだ。
晁蓋と出会い、晁蓋について、彼は梁山泊までやって来た。晁蓋亡きいま、梁山泊に止まる理由はない。公孫勝は晁蓋を選んだが、梁山泊を選んだわけではない。
(智多星よ、俺を笑え)
あの日、晁蓋の屋敷を訪れた日。彼は、恐れることを知らなかった。
(俺は、なにものも恐れなかった。戒律に背き、宿命すらあざ笑った。しかし、今、儂は自分を恐れている。己の持つ力によって、我が身を、世界を滅ぼすことを恐れている)
かって、師父・羅真人が言った。
「お前は天龍となれば数多の小龍を率いて九天の高みに昇る。しかし、ひとたび地に堕ちて妖魔となれば、世界を滅ぼす」
その意味を、公孫勝はようやく悟った。
眠っている呉用の膝に、公孫勝は預かっていた九天玄女の天書を載せた。そして、真新しい晁蓋の柩に一礼し、殯屋を出ようとした。
その背に、気配を感じた。ただならぬ、巨大な熱を感じた。振り向くと、そこに燃え盛る七色の炎が見えた。呉用も柩も見えなかった。公孫勝は、暗黒の中に、きらめく無数の星の中に立っていた。
「行くのか」
闇の中心、炎の中から晁蓋の声が聞こえた。
「行くがいい」
笑い声が世界に響いた。
「どこへ行こうと、お前は龍だ」
公孫勝は息を呑んだ。燃え盛る火──そして、そのただ中に異形の神が立っていた。

甲冑をつけ、左手に塔、右手に宝剣を持ち、炎の中に佇立する漆黒の神だった。爛々と輝く目を剥いて、公孫勝を凝視していた。身動きができなかった。炎が紅蓮の腕を伸ばして、彼を包み込もうとしていた。吸い込んだ空気が煮えるように熱かった。神は笑っている。神は笑いながら、公孫勝を焼き殺そうとしているのだ。
「お前は、だれだ」
ようやく声あげた時、ふと背後から冷たいものに覆われた。純白の薄絹が公孫勝と神を隔てていた。
「あれは天竺の神」
何者かが言った。
「北方の守護者にして、戦と財宝の神。羅刹の王。人身馬頭の異能者の主。その名を“具肥羅(クヴェーラ)”もしくは“吠室羅摩拏(ヴィジュラヴァナ)”。中国に来たりて仏教では“毘沙門天”、道教では“托塔李天王”と尊称する」
「それが、なぜここに……」
「宿命」
公孫勝の目に、わずかな光が揺らめいた。
「宿命」
薄絹の紗幕の向こうで、異形の神はまだ炎をあげていた。遠い炎の発する熱は、暖かく、懐かしかった。
「宿命は、まだ尽きてはいないのか」
ふいに公孫勝は我に返った。自分が目を開けたのが分かった。眠っていたのか、気を失っていたのだろうか。
「一清?」
呼びかけていたのは、呉用だった。
公孫勝は殯屋の中を見回した。無限の闇も、永劫の炎もない。公孫勝は晁蓋の柩の奥の祭壇に安置されている、真新しい彫像に目を止めた。
「この像は、なんだ」
それは、紛れもなく、あの炎の中の神だった。
「晁蓋殿が背に刺していた刺青です。蕭譲に書き写してもらい、金大堅が彫りました」
「晁蓋殿が、刺青を?」
「わたしも、遺体を清めた時に、はじめて見ました。不思議な像でしょう。神かどうかも分からない」
呉用は、公孫勝の背の荷物に目を向けた。
「もう、行くのですか」
「智多星」
公孫勝は晁蓋の柩を、その向こうの神像を仰ぎ見た。ながいあいだ、そうしていた。
やがて、公孫勝は口を開いた。
「本当のことを言う」
神像を見上げたまま、公孫勝は言った。
「儂は、力を失ったわけではない。ただ、力が恐ろしかったのだ。自分が、人でないものになった気がした。しかし、晁蓋殿がいれば、耐えられるのではないかと、思っていたのだ。晁蓋殿がいれば、なにがあろうと、なにになろうと、大丈夫なのではないかと……」
晁蓋の死が、きっかけにすぎない、などというのは嘘だ。
「儂は、逃げようとした」
晁蓋の死によって、その恐怖から逃げようとした。晁蓋がいなければ、今度は山に、羅真人にすがりつく気だったのだ。
「そんな儂が龍であるはずがない」
公孫勝は、ずっと自分の中に押し殺していたものが、ざわざわと動きはじめるのを感じていた。彼を二仙山から連れ出したもの。晁蓋や呉用に出会わせたもの。梁山泊まで導いたもの。うごめき、のたうち、飛翔しようと足掻くもの。
(どこへ行こうと、お前は龍だ)
晁蓋の声が再び聞こえた。
今なら分かる。晁蓋がなぜ強かったのか。晁蓋は、知っていたのだ。我が身を滅ぼすこと、世界を滅ぼすことの真実を。知りながら、恐れなかった。
燃え盛る混沌の炎の中に、宝塔と剣を掲げて戦い続ける。
それこそが、宿命の姿ではないか。
公孫勝の不吉な予言すら、晁蓋は笑って「信じる」と言った。
「将星は堕ちたのではない。晁蓋殿は天に昇ったのだ。師父よ!!」
公孫勝は天空に呼びかけた。
「あなたが言ったのだ。“星の導く声を聞け。その導きに背いてはならぬ”と」
公孫勝は背負っていた荷物を投げた。自分の手が、炎を纏っているのが見えた。白衣に身を包んだ呉用もまた、紅蓮の炎を身に帯びていた。
「一清……」
「儂の宿命は……まだ、梁山泊にある」
これが、入雲龍の修煉なのだ。
龍となれ、妖魔となれ──滅びるなら、滅びよ。
雷訣を結び、北斗を踏んで、公孫勝は呪言を放った。
「吾奉太上老君勅急急如律令!! 五雷帝君!!」
公孫勝の白髪が天へ向け逆しまに立ち、空に雷鳴が轟いた。
「疾!!」
空気がきしみ、次の瞬間、神々が降臨した。すなわち五方雷霆大帝君、五柱の雷神である。青に、赤に、白に、黒に、そして黄金に輝く五人の神将が、それぞれの両手に武器を掲げて屹立する。蒼穹に金の稲妻が飛び交っていた。
公孫勝はびりびりと震える大気を吸い込んだ。世界が見えた。高廉と戦った時とはまるで違う。いままで模糊としていた世界が、どこまでも見渡せるようだった。まるで額に第三の瞳が開いたようだった。

(これが、儂の宿命)
顕現した神の姿に、樊瑞は思わず呪符を取り出した。
「急急如真武大帝律令!!」
次の瞬間、樊瑞は自分自身が北方真武大帝となって、空にそびえ立ったのを知った。

五柱の雷神が真武大帝を取り囲む。炯々と輝く十の目が、樊瑞を射すくめた。樊瑞は剣を掲げた。雷神たちも武器を構えた。十二本の脚が大地を踏み、武器を持つ十二本の腕が交差する。斬り、突き、打つたび、雷鳴が轟いた。六人の神の戦いは雷鳴を帯び、稲妻を呼んだ。
真武大帝となった樊瑞は、力を振り絞って戦った。神の力は容赦なかった。白銀の雷神の剣で右腕が落ち、黄金の雷神の矛で左の腰が大きく裂けた。傷の中は、闇だった。樊瑞は、自身の身のうちが、がらんどうであることを知った。
その時、漆黒の雷神が腕を天へ差し伸べた。その腕に巨大な白蛇が巻きついていた。楊春の“白公主”だった。白蛇は真武大帝に躍りかかり、巨体にからみついた。銀色の火が燃え上がり、真武大帝の体を包んだ。

樊瑞は苦しさに悲鳴を上げた。蛇に締めつけられる苦しみ、それよりも、冷たい劫火の責めに喘いだ。全身を焼く火は、氷のように冷たかった。やがて、全身にひびが走った。樊瑞は、自分が粉々に砕けるのを感じた。首が、腕が、胴体が、脚が、八方に飛び、音をたてて砕けて散った。
樊瑞は大地に投げ出された。
その前には、甲羅がばっくりと二つに割れた亀が白蛇にからみつかれてのたうっていた。北方の守護霊獣、玄武の姿──この亀が魔王の憑座、真武大帝の正体だった。
樊瑞は震える腕で魔剣を握り、蛇を二つに断ち切った。その腹から、無数の子蛇が湧きだした。滝のように溢れだし、樊瑞に向かって押し寄せた。
樊瑞は叫んだ。同時に、樊瑞は目を開けた。
静かだった。白蛇の群れも、五雷神も消えていた。樊瑞の周りには、ただ、なにもない大地、なにもない空が広がっていた。
(俺は王だ)
樊瑞は剣を杖に体を起こした。歪んだ顔に、狂気の笑いが広がっていく。
(そうだ、誰よりも強い。誰よりも──強くなるのだ)
その時、ふいに、ひとつの疑問が樊瑞の胸に生じた。
(なんのために?)
その瞬間、樊瑞は、灰色の虚無のなかにぽかりと浮かんでいる自分に気づいた。天もなく、地もない、永劫の無のなかに、樊瑞は身ひとつで浮かんでいた。なにもなく、だれもいなかった。ただ、寒かった。
(そうだ、俺は……)
俺は乞食の子供だった。父親は盲目で、母親もまた盲目だった。みぞれの夜に、二人は墓場で冷たくなった。俺はひとり残されて、不思議な老人に拾われた。“混沌子”と名乗る老道士だった。真っ白な髯が膝まであって、あかざの杖をついていた。老人は俺を山に連れていき、食い物をくれ、いろいろな術を教えてくれた。気に入らないことがあると、あかざの杖で俺を殴った。俺は、たいていの術を習いおわると、老人を殺して、山から逃げた。老師父は、自分の教えた流星錘の下に殺されたのだ。それからは、各地を歩き、名のある道士をみつけては新しい術を教わった。渋る者は脅した。傷つけた者も、殺した者もある。ただ二人、華山の無酔長老と、二仙山の羅真人だけは、脅すことすらできなかった。
(俺は、いったい、なにものなのだ)
樊瑞は永劫の虚空の中に漂い、縋るように答えを求めた。
寒かった。耐えがたく、冷たかった。
墓場の片隅にある無縁仏を祀った廟で、親を失い、ひとりきりになった夜よりも、今、世界はさらに冷たかった。
耐えきれず、樊瑞は叫んだ。
父よ!! 母よ!! 師父!! 項充!! 李袞!!
答えはなく、闇の中から、顔をもたないすべての死者が指を突きつけ、樊瑞を呪った。
「お前は王などではない」
「やめろ!!」
「すでに人ですらないものだ」
「やめろ、やめろ……!!」
狂ったように樊瑞は叫んだ。
その時、はるか闇の彼方に火が見えた。真っ赤に燃え盛る火の中の神が見えた。樊瑞は、夢中で手を伸ばした。体が動いた。わずかに脚が動かせた。樊瑞は夢中で脚を動かした。闇を恐れる子供のように、樊瑞は灼熱の神を求めて走った。
(あらゆる思慮を失った姿を“混沌”という。それは道の姿でもある)
彼が殺した師、“混沌子”が言った。
(それはまた、天地開闢の、あらゆるものが分かたれず、渾然一体となっていた時の姿でもある)
「混沌……」
(そこには、すべてがある。すべてがそこから生まれ、還るのだ)
それはもう師父“混沌子”の声ではなく、誰の声でもなかった。ただ、懐かしい思いがした。一番古い記憶よりもさらに前、もっとずっと前の世で、確かに、聞いたことがある……。
「あなたは」
目の前に、異形の神が立っていた。炎に包まれた神は、手にした剣で樊瑞の胸を貫いた。

剣は樊瑞の心臓を刺し貫いて、背中へ抜けた。胸に、灼熱の炎が燃えた。
樊瑞は、我に返った。
心臓の音が聞こえた。自分の心臓の音だった。
眼を開けると、昼さがりの空が広がっていた。虚空も神の姿もなく、見慣れた芒湯山の麓の平野に、樊瑞は横たわっていた。
彼は、もはや一個の廃人に過ぎなかった。額の血紋が滲むように消えていく。体のどこにも、もう一片の力もなかった。
ぼろ布のように横たわる樊瑞の首に、公孫勝が松紋古定剣を突きつけた。
樊瑞は目を閉じた。暗闇の中に、炎を帯びた異形の神が見えた。その向こうに、遠く、緑の木々に包まれた山並が見えた。師父・混沌子を殺し、ひとり山をさまよっていた時に、項充と李袞に出会った。三人で、誓った。この世には、七十二の福地──楽園があるという。ならば、俺たちは俺たちのために、七十三番目の福地を創ろう。誰よりも強くなり、誰にも支配されぬ、自由の王国を創り出そう──。
(自由とは、力とは、なんだ)
「樊瑞よ」
眼を開けると、公孫勝の顔が見えた。
「この世には、王などいないのだ」
その眼は厳しい。しかし、その言葉は、砂に水がしみ込むように、樊瑞の心にしみた。そして、この男も、あるいは自分と同じ闇を、魔を見たのではないかと思った。
樊瑞は公孫勝から、青空に視線を転じた。
黄梁一炊の夢。

混世魔王・樊瑞は、眠るように意識を失っていった。
白雲が世界を覆いはじめていた。空は晴れ渡ったまま、大地を濃い霧が覆っていく。公孫勝は樊瑞の腕を肩にかけ、その身を担ぐと、白雲の中へと歩きはじめた。
「一清道人……」
朱武が公孫勝の姿を求めてやってきた時、すでに、そこに二人の姿はなく、ただ術を解かれた神兵たちが、ぽかんと立っているばかりだった。
誰もいなくなった玉清宮に、項充はひとりで佇んでいた。部屋の片隅に、位牌が捨てられ、転がっていた。
『梁山泊主天王晁公神主』
晁蓋の名を、聞いたことはあった。
“托塔天王 晁蓋”。
彼のあだ名である、“那托”とは、伝説の武神“托塔天王”李靖の息子だ。そんなことを、ふと考えた。
その時、項充は自分を呼ぶ声を聞いた。
「樊瑞?」
振り返っても、誰もいない。
しかし、彼は確かに聞いた。
彼を呼ぶ声。

項充は位牌を拾った。その顔には、かすかな笑みが浮かんでいた。
晁蓋の位牌を懐に、項充はゆっくりと蒼穹の下へ踏み出した。
芒湯山は、深い霧に覆われていた。
文中『芒湯山』の表記は、正しくは です。
文中の『那托』の表記は、正しくは です。
文中の『跳間虎』の表記は、正しくは です。
文中の『撲天鵬』の表記は、正しくは です。
文中の『没遮闌』の表記は、正しくは です。
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