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巳刻を告げる十五の太鼓が、鳴りやんだ。
宋江に導かれ、梁山泊軍は粛々と開封城内へ進んでいった。

新曹門から続く牛行街は、妓楼や料亭が立ち並ぶ東西の目抜き通りである。使者に導かれて道をゆく宋江たちを、住民たちは家から飛び出してきて見物した。酒楼の窓には、妓女たちが鈴なりになっている。
やがて、前方に再び城壁が見えてきた。
開封城には、三重の城壁がある。天子の住まいする宮城を囲む城壁、役所や貴顕の邸宅がある内城を囲む城壁、そして外城を囲む城壁である。内城に入れば、二重の城壁で城外と遮られることになる。
一行は旧曹門をくぐり抜け、内城へと進んでいった。旧曹門を入ると、大通りは曹門大街と名を変える。
賑やかさも更に増し、路傍には華やかな飾り門を設けた酒楼や邸宅が続く。見物人もますます多くなり、通りは祭のようだった。
宋江たちは粛々と進み、子供たちがはやし立てながら後をついて行く。見物人の中から、梁山泊の中に顔見知りを見つけて一行に加わる者もあった。禁軍の兵が押し返そうとしても、住民たちはさらに前へ進もうとする。
間もなく、一行は土市子と呼ばれる十字路にさしかかった。曹門大街で最も賑やかな盛り場だ。北西の角には名高い料亭の潘楼がそびえ、門前にはさまざまな日用品や食べ物を売る露店が密集している。
この辻で、林冲はひとり隊列を抜けた。
何かに導かれるように、林冲は十字路を北へ折れ、馬行街を進んだ。また横道に入り、林冲は馬を止めた。しばらく、そこに佇んでいた。
なんの変哲もない路地だった。普通の人々が、平凡に暮らしている街角だ。
この場所を、林冲は何度、夢見ただろう。
(私の家──)
小さな門、季節の花の咲く庭を通り抜けると、双喜紋の切り紙を貼った扉があった。部屋の様子、卓に置いた茶碗の模様、窓に垂らした布の柄まで、鮮明に思い出すことができた。鴨居の隅の小さな疵や、台所から漂ってくる香油の匂い、彼を出迎えようと駆けてくる軽い足音──。
しかし、彼が妻の雪蘭と過ごした小さな家は、どこにもなかった。
家は焼けたと聞いてはいたが、一帯には新しい建物が並び立ち、自分の家がどこにあったのかさえ、まるで分からなくなっていた。
賑やかな通りを、人々が忙しげに行き来している。天秤棒を担いだ鋳掛けやが、鉄瓶を叩きながら行き過ぎていく。子供たちが、馬の足元を駆けていった。
目眩を感じた。この現実的な風景が、幻のように虚ろに見えた。
風が吹き抜け、林冲は淡い花吹雪を見た。

風は薄紅の花びらを運び、林冲の髪を撫で、頬を吹きすぎ、どこか空の高いところへ去っていった。
林冲は風を追い、空を見上げた。
そこには、晴れた空が広がっているだけで、風も、薄紅の花びらも、一瞬の哀しい幻影だった。
「……どこへ」
林冲は呟いた。
どこへ行けばいいのか。
「帰らなければ」
一体、どこへ帰ればいいのか。
人々の日常に落ちた影のように、林冲はその場に身じろぎもせず佇んでいた。

城門外の梁山泊軍は、整列したまま正午の太陽に晒されていた。
小魚と杓児は、門の前に並んで城壁を見上げていた。梁山泊軍は、門から離れた空き地に駐屯させられ、その周囲は禁軍に包囲されている。
彼らは、宋江たちが残していった武器の山を守っていた。
「……どうしよう」
杓児は“鬼斬”と“吹毛剣”を抱き、青ざめた顔でずっと城門の方を見つめている。
「おじさんたち、大丈夫かな」
その傍らには、小狗がぼんやりと佇んでいた。
不安が、梁山泊軍全体を包み込んでいる。小魚が怒ったように、地面に置かれた呼延灼の鞭に手を伸ばした。鞭は重く、小魚はその重みによろめいた。
その時、杓児は、梁山泊軍の後方がざわめきだしたのに気がついた。監視の禁軍兵が駆け出していく。
後方から梁山泊軍が二つに割れ、中央に道を作った。その間を、ゆっくりと巨大な人影が進んでくる。
「──あれは」
その男の姿を見た禁軍の兵士たちは、雷に撃たれたように足を止めた。
空に、ふたすじの旗が立った。
『替天行道』──天に替って道を行う
『忠義双全』──忠義、双つながら全し
焦挺と郁保四が、一本ずつ旗竿を掲げた。
翻る旗に、石版に刻まれた言葉の意味を、宋江は今さらながら噛みしめた。
“忠”とは、真心を尽くすこと。“義”とは、人が守るべき道。
忠義とは、正しいと信じることを、心をつくして行うことだ。
国のためでもなく、人のためでもなく、自分のためでもなく、ただ、やらねばならぬと信じることを、行うこと。
それこそが、我々が選んだ天の道なのだ──と。
この先に、何が待っているから分からない。
(晁蓋殿)
今ならば、晁蓋が力強く頷いてくれると、信じられた。
(わたしは間違ってはいない)
徐寧が顔を上げた。
「──東角楼だ」
彼方に宮城の城壁と、その東南隅の楼閣が見えてきていた。東角楼は、色絹と灯籠で飾られていた。慶事の時の装飾である。
潘楼の先の通りは、潘楼街と呼ばれる。宮城まであと一里ほどの距離である。両側はさらに繁華な町並みとなり、路傍には見物人が群れを成していた。高楼の欄干にも人が鈴なりになり、男も女も梁山泊の山賊たちを一目見ようと、精一杯、体を乗り出している。
みな祭りだとでも思っているのか、音楽が鳴り響き、花吹雪が舞っている。呼延灼は苦笑した。
(葬送か)

危険な賭けだ。
罠かも知れない。
今、敵地に、丸腰で、たった百人たらずでいるのだ。
梁山泊を歓迎すると見せかけて安心させ、宣徳門に誘い込んで皆殺しにするなど簡単なことだ。
まるで、この国のすべてが敵のように思われた。笑顔の中に刃を隠した敵だ。
(好きにするがいい)
彼らは国に追われ、官に虐げられて賊となった。
今、赤心赤裸をもって、天子にまみえる。
この姿を見よ──と、心の中で叫んでいた。今また陰謀に斃れれば、その血の色を見るがいい。
東京の町並みは華やかで、荒廃した梁山泊周辺の土地とは雲泥の差だ。これこそ、この国の矛盾の姿だ。
そして、彼らもまた、この宋国の矛盾と腐敗の象徴であり、その泥土から咲き出た一輪の華なのだ。
太陽が高い。
晩秋だというのに、太陽のせいか、東京の熱気のせいか、暑いほどだ。
晴れ渡る空に太鼓が響いた。ゆっくりと、東京の空を単調な調べが流れていく。徐寧が教えた。
「宮城の鼓楼の太鼓だ」
文徳殿の鼓楼は時刻ごとに打ち鳴らされ、東京の人々に刻を告げる。
通常は十五回。正午だけは、百五十回が打たれる決まりだ。
規則正しい間隔で打たれる太鼓の音とともに、梁山泊の行列はゆっくりと宣徳門へ進んでいく。
宿元景と王都尉は楼閣の欄干に寄り、それを見守る以外に術はなった。
天子の御前では、いかな高求とて暴挙には出られない。しかし、いまだに後宮から天子出御の知らせはない。
潘楼街を梁山泊のふたすじの旗が近づいてくる。路傍を埋めつくす禁軍が、ゆっくりと動き始めた。
宿元景は呻いた。
「お上は──お上はまだか!!」
天子は劉貴妃の部屋にいた。珍しく機嫌が悪かった。
貴妃は絵筆をとって、天子に勧めた。
「この絵を描いておしまいになられたら」
天子の前には、描きかけの花鳥図が広げられている。天子は絵筆を一瞥し、首を振った。
「興が乗らぬ」
今日は帰順した梁山泊軍を閲兵する日だ。宋朝の栄誉を輝かす華麗な式典を楽しみにしていた。絵にも描こうと思っている。
しかし、時刻は刻々と迫っているのに、いまだ準備が整わないという。
「朕は行くぞ。待ちくたびれた」
「お待ちを」
出ていこうとする天子を、劉貴妃は慌てて追いかけた。
彼女は楊晉らから言い含められているのである。市井の酒屋の娘であったのを、楊晉らが勧めてくれて貴妃にまで登りつめた。一族も繁栄している。楊晉たちには並々ならぬ恩があった。彼女が生んだ子供たちの将来も、彼らの力添えにかかっているのだ。
楊晉が目配せした。劉貴妃は慌てて天子の袖を取った。
「なまりせん。お外には、謀叛人どもが……」
劉貴妃は口をすべらせた。
「貴妃様」
楊晉が取り繕うとしたが、間に合わなかった。
「なんの話か」
天子の目が、厳しく楊晉を見据えていた。
その時、いずこからか美しい女の声が響いた。
「陛下、欺かれてはなりませんわ」
「おお──」
扉が開き、華麗に正装した美女が現れた。

「李師師ではないか」
李師師は天子に向かって一礼し、それから楊晉、劉貴妃に目線を向けた。
「謀叛人とは、一体、誰のことかしら?」
後宮と礬楼の間には、秘密の通路が繋がっている。天子がそれを使って李師師と会うことができるのならば、李師師が宮城に入ることも可能であった。導いたのは、老間諜“在不在”であった。
楊晉は意を励まし、時ならぬ闖入者に詰め寄った。
「なんと、賤しい身分でありながら無断で宮中に入るとは。いかに陛下の愛人とて……」
「口を慎みなさい、無礼者」
李師師はさっと錦繍の袖を払うと、楊晉へ向け真白い手を差し出した。その手には、彫りも鮮やかな“明妃”の印綬が輝いていた。
楊晉はたじろぎ、口許に力ない笑みを浮かべた。
「しかし、もう遅い」
正午。
城壁沿いの道を、林冲は人々をかき分けるように進んでいた。
ゆっくりと太鼓の音が流れていく。
懐かしい東京──林冲は、その隅々まで知っている。
今、宋江たちは宣徳門に向かっているはずだ。馬行街から路地を西へ抜け、城壁沿いに南下すれば東角楼、その先が宣徳門だ。
見上げると、前方の城壁の角に聳える楼閣が見えた。今しも、宋江たちの一行が道の先を横切っていくのが目に入った。あたりは禁軍の兵士だらけで、宋江たちが通過すると、その背後の道を封鎖した。
「罠か!!」
林冲は咄嗟に駆け出した。
東角楼の角を曲がり、阻止しようとする禁軍をすり抜けて、宋江たちの後を追った。一行はすでに宣徳門の東方にある、左掖門前にかかっていた。宣徳門前の広場に入れば、袋の鼠だ。逃げ道はない。
林冲は駆けた。自分がどうするつもりなのかは、分からなかった。戦うつもりか、宋江たちと一緒に死ぬつもりか……。
(どちらでもいい)
進むにつれ、兵士の姿が多くなった。
梁山泊についてきた子供たちや見物人は、東角楼の角で追い散らされ、路傍には禁軍兵が武器を手に隙間なく立ち並んでいる。
彼方に宣徳門が見えてきた。壮麗な門楼だ。光り輝く百花のようだ。宮城の正門であり、春節や万寿節、恩赦を発するめでたい日には、この門楼から天子が万民を安撫する。
栄光と歓喜の門だ。
先頭の宋江は、静かに馬を進める。彼らを迎える禁軍も、水を打ったように静まりかえっている。ただ聞こえるのは宋江たちの足音と、鼓楼の太鼓の音のみである。
鼓楼が百五十個目を打ち鳴らし、長く尾を引いて消えた。
一瞬の静寂、そして、その沈黙が忽然として破られた。
「梁山泊──到着!!」
儀仗兵が槍を掲げる。太鼓の乱打が轟いた。矢来の陰の砲兵が線香に息を吹き掛けた。
宿元景は息を呑み、高求は惨劇の始まりを待った。
次の瞬間、万人を擁する広場の空気がどっと震えた。
林冲はそばにいた兵士が手にした槍へ、反射的に腕を延ばした。
しかし、それを奪い取ることはなかった。
林冲の動きが、凍りついたように止まった。
壮麗なる宣徳門、その空に轟いたのは、鯨波ではなく──数万の兵士の歓声であった。
「梁山泊帰順!!」
火砲が空に向かって火を噴いた。
「萬歳萬歳──萬々歳!!」

青空に金色の花火が弾けた。甲仗庫のかつての凌振の部下たちだった。凌振は花火を見上げ、首を振った。
「下手くそめ、全く技が進歩しとらん」
官軍の歓呼の声がこだまする。
彼らを率いる将の中に、豊美、党世雄らの姿があった。呼延灼は韓存保と目が合ったが、すぐに通り過ぎていった。韓存保の後ろには、呼延灼のかつての部下たちがいた。関勝ととともに戦った者たちもいた。馬上の関勝に向かって、手を合わせる老兵の一団もいた。
ひとりの若い軍人が進み出て、林冲に声をかけた。
「王文斌と申します。林先生の厳しい教えを胸に刻み、今は教頭を務めております」
道筋には、金鎗班の者たちが黄金の槍を掲げて並んでいた。向かい側には槍棒班が並んでいた。そのことに、林冲はようやく気づいた。
彼の同僚だった者、彼に教えを受けた者が、まだ多く残っていた。中年や老年の兵も多かった。林冲には見覚えがあった。彼らは皆、古参の兵だ。かつて全軍から尊敬を受けた都教頭、張徹に教えを受けた者たちだった。
張徹は林冲の師であり、妻・雪蘭の父親だった。
林冲は、ひとりひとりは名も分からぬ兵士たちの顔に、こみ上げる懐かしさを感じた。今は亡き人々が、ここにいる───自分を見守っていると感じた。
林冲は空を見上げた。
花吹雪が散る。
色紙を切り抜いた偽物の花びらだった。
しかし、林冲の肩に落ちたひとひらの花、それも花には違いなかった。
高求は絶句した。
梁山泊の頭目たちは、まさに広場に入ったところだ。禁軍は四方を取り巻き、その中央の空間に、宋江を中心に三列に並んで立っている。たった百人足らずというのに、この広大な場所が狭く感じた。
そのことが、高求の怒りに火をつけた。禁軍に、彼に従わぬものの存在は許せない。
「構わぬ──」
禁軍の中に逆らう者がいるのなら、梁山泊ともども滅ぼすだけだ。高求の腹心の部隊は、いつの間にか御街から後方へ追いやられている。陪臣を呼んだ。
「構わぬ、梁山泊の謀叛人どもを討て!!」
梁山泊を歓迎しているのは一部の、最前列に割り込んできた部隊に過ぎない。煽動したのは、韓存保だ。あとの兵は、訳が分からずにいるだけだ。
高求はあらかじめ、合図があれば梁山泊の頭領たちを誅殺せよと、腹心の部隊に命じていた。その部隊が、今しも広場の西、右掖門の方角から、門下になだれ込もうとしていた。しかし、その前進はすぐに阻まれ、やがて、じりじりと後退をしはじめた。
楼閣上の高求からは、真下の様子がよく見えない。
「なにをしている!!」
高求は欄干へ寄り、伸び上がって東角楼の方角を見た。
「あれは……」
その時には、広場の人々も気がついていた。潘楼街を何かがやって来る。規則正しく轟く音は、足音だ。その接近とともに、住民たちのどよめきが波のように沸き上がる。
「おお!!」
潘楼街から押し寄せるのは、万余の軍勢である。宣贊は、目を瞠った。
「あれは──」
男たちの先頭を、辺りを払うようにして真紅の馬が進んでくる。
「関兄!!」
赫思文が呟いた。
「“単騎走千里”──ああ、関兄!!」

先頭を進む関勝、その傍らには戴宗がした。背後には燕順と、欧鵬ら“黄門四怪”、そして、史進。さらに、彼らに率いられた梁山泊軍の隊列が続いていた。足音が雷鳴のようだった。大地がびりびりと震えていた。
広場の孫二娘が伸び上がり、張青の肩を叩いた。
「武松と施恩だよ。和尚もいるよ」
武松と施恩、少し遅れて魯智深が禅杖を担いでいた。
梁山泊軍は一糸乱れぬ行進を保ったまま広場に入り、宋江ら頭領たちの背後に並んだ。王英が列をかきわけ、燕順のもとに駆けつけた。
「親分、どこに行ってたんだよう!!」
「ちょいと散歩だ!!」
燕順は豪快に笑った。後ろには、この短い旅の間に、燕順を“親分”と仰いだ男たちが、千人ばかりも従っていた。鄒淵と鄒潤は博徒たちを連れていた。宋清が兄のもとに駆け寄っていく。朱仝と雷横が馬から下りた。
「雄さん、戻って来たぜ」
石秀は背中の楊雄を下ろすと、額の汗を拳で拭った。
宣徳門の門楼では、王都尉が梁山泊軍の並ぶ広場を見渡していた。
「お前も仲間が恋しかろう」
王都尉は振り返り、背後に控える楽和に言った。
「さぁ、お前も戻るがいい」
楽和は拱手し、蕭譲とともに門楼の階を降りていった。楽和の吟ずる歌声が、涼やかに正午の宣徳門に響き渡った。
“共歓天意同人意 萬歳千秋奉聖君”
「共に歓ぶ、天意の人意に同じきを──萬歳千秋、聖君を奉ぜん」
開封東京、宣徳門前。大宋国の中心である。
その地に、いま再び、梁山の英雄豪傑一百零八将が姿を揃えた。
高求は欄干を拳で叩いた。
「梁山泊軍には入城を許しておらぬ!! 謀叛──」
「許可ならば、これに」
その時、聞き慣れた厳格な声が響いた。
「“裴鉄面”!!」
裴宣が進み出て、楼閣下にさっと一通の書状を掲げた。
今しも、宿元景から渡された勅書であった。
そこに記された『勅』の文字に、高求は、すべてが終わったことを悟った。
歓呼の声が、東京の空を覆った。
沸き立つような空気の中に、軍政司“鉄面孔目”裴宣の声が響いた。
「───梁山泊軍、整列!!」
梁山泊を出た時は一万足らずであった梁山泊軍は、いつの間にか、二万以上に増えていた。
広場は不思議な恍惚に包まれていた。
呼延灼は得体の知れない高揚に、ふと不安を感じさえした。
宋江はやや上、楼閣を仰ぎ見るようにして、立っている。喝采を全身に浴びながら、どこか遠くを見ているようだった。
住民たちが見物のため、御街に、広場の東西に押し寄せていた。歓声が高まり、広場を埋めつくしていた。広場は熱狂の渦に包まれ、花火が続けざまに打ち上げられる。花吹雪が雪のように舞っていた。

呉用の横に、いつの間にか“入雲龍”公孫勝が立っていた。
公孫勝は呉用に袱紗の包みを差し出した。焼け落ちた廟の中で見つけた、石の箱の中に入っていたもの──三巻の天書であった。
空に群衆の声が轟く。
天地がうねっているようだ。
その浪に流れるように、見物人の群の中から、ひとりの若者が歩み出た。
燕青だった。
自分が何を迷っていたのか、ふいにばかばかしくなった。
最初から、何も悩むような事など、なかったような気がした。
戴宗と目が合ったが、戴宗は何も言わなかった。燕青は最前列の一番はじに入った。そこが彼の場所だった。
本当は何をしたいのか──その答えは、とうに決まっていたのだ。
梁山泊へ向かう前から、決まっていた。
燕青は思わず声を出して笑った。横にいた解宝が、ちらりと燕青の顔を見た。
梁山泊では、特に親しみのある男ではなかった。その解宝の顔に、よく見ると古傷がたくさんあることに、今日、燕青ははじめて気がついた。
門上の高求は、怒りに震える腕で欄干を握っていた。
「なんということだ──」
聞煥章が門楼に登ってきた。高求を見て、微笑んだ。
「“梁山泊軍を歓迎せよ”とのご命令でしたので」
王都尉が門下を眺め、首を傾げた。
「わしは梁山泊軍が謀叛──との噂を耳にしたのだが、どうにも彼らは丸腰のようだ。蹴鞠で天下を取ろうとする者もいるようだが、彼らは相撲ででも謀叛するつもりかね?」
門下では、梁山泊軍が城外に置いてきた武器が、聞煥章の計らいで人民によって運ばれてきていた。
「武器も持たぬ梁山泊軍が頭を垂れて拝謁しても、陛下はお喜びにはなりますまい。勇壮無比の梁山泊軍が聖恩により帰順した姿こそ、御覧にいれねば意味がない」
梁山泊軍は、再びそれぞれの武器を手にした。正午の光に黄金の光が反射する。
高求がなお何か言おうとした時、楼閣上に管弦の調べが起こった。
天子の輿が到着したのだ。百官とともに、冕冠竜袍の正装に身を包んだ天子が宣徳門の楼上に現れた。傍らには、やはり妃の正装をした李師師が付き添っていた。
太鼓が打ち鳴らされ、万歳の声がひときわ大きく轟いた。
花火が流星のように次々弾ける。
「梁山泊──御前に見参に入る!!」
宋江の声が朗々と響いた。
梁山泊、百八将は武器を掲げ、宣徳門の前に進んだ。ずらりと馬を並べた英雄豪傑──その威風に、天子も兵士も、その場のすべての人が圧倒された。
「──安堵した」
朱の欄干に寄って広場を見下ろし、天子は心からそう呟いた。
「この者たちが宋朝の敵とならなかったのは、まさに社稷の神のご加護であろう」

これほど勇壮な者たちを見たことがあろうか。これほど精気に満ちた軍隊を。
彼らは皆、竜虎、神仙、夜叉や神の名を持つ男たちである。本当に名だけであろうか? 人々は本物の数多の竜、数多の虎、異形の神、美麗なる魔──あらゆる魔神の姿を百八人の上に重ね見た。

兵士たちの熱狂には、もちろん、聞煥章の根回しと、韓存保の説得もあった。
しかし、高求の専横を、心ある者はずっと苦々しく思っていたのだ。
“武神”関勝、そして“軍神”呼延灼。禁軍にその人ありと言われた林冲、徐寧。秦明も花栄も楊志も索超も、知らぬ者はいなかった。
「あの人たちは、本当にいたんだな」
今、彼らは堂々たる梁山泊軍の将兵の姿を、その伝説ともなった英雄たちの姿を目の当たりにした。
彼らは、官軍のほかの軍とは違った。身長容貌まで選抜された三衙の禁軍とも、勇猛な節度使軍とも違う。寄せ集めの山賊だ。しかし、どんな軍よりも堂々と、誇らしげであった。兵士たちは、はじめて、宋国の軍にいることを誇りに思った。
またこの閲兵を見ることを許された開封の市井の人々は、もとは彼らと同じ世界に生まれ、運命の流転の末に、そこから飛び出して行った者たちの姿に釘付けだった。二竜山や清風山の話は講談でよく知っている。扈家荘の悲劇、江州白竜廟小聚義──講談師・楊林の功績である。民衆は身近な、しかし比類なく勇気ある英雄の姿に胸を躍らせていたのである。
熱狂が宣徳門に渦巻いていた。
宿元景は感動していた。身の内が震えるのを感じた。
長く高求に支配されてきた禁軍。四姦に欲しいままにされてきた宋朝。
淀んでいた国の中に、一陣の涼風が吹き込んだようだ。
何か、新しいものが始まる。新しい時代──。
国内には、田虎、王慶、方臘の反乱を抱え、北には契丹族の遼国、西には拓跋氏の西夏国の驚異にらされている。朝廷内にさえ政争が堪えない。
閉塞し、腐敗を続けてきた宋朝に、空のごとく、水のごとく開けた、明るい、新たなる時代が到来するのかもしれない。
(梁山泊こそ──希望)
この日の事を、後に、宿元景は遙か北の大地で回想することになる。
閲兵式が終わると、梁山泊軍は宮中の文徳殿にて、酒宴を賜ることになっていた。
閲兵に続く宴会でも、天子は龍顔うるわしく、親しく宋江に言葉をかけられた。また、前周朝天子の直系である柴進には特に敬意を表され、手ずから御酒を勧められた。
その様子に眉をひそめる蔡京、高求らの眼差しを、呉用がまた冷やかに見つめていた。
宴席には、李師師の姿もあった。正装して、天子の横に侍っている。
燕青は、三十六番目の将校として、宴席の中程にいた。壇上にいる正装の李師師は、急に遠い人になったようだった。いつにも増して、美しかった。
一瞬、燕青の方を見たような気がしたが、気のせいかもしれなかった。
腕にはめた玉の腕が、少し重たく感じられた。
殿前司制使であった楊志には、宮城は勝手知った場所である。あの頃は、日々、楊家の誇りを胸に出入りしていた。
憮然と酒ばかり呑んでいる楊志に、索超が声をかけた。
「奇妙なものだ、楊志」
索超はそびえ立つ宮殿の柱を見上げた。
「我々は官軍にいて、山賊になり、また官軍に戻ってきた。長い夢でも見ていたようだ。まるで、何も変わりはない」
そうか?と、楊志は尋ねたかった。
本当に──何も変わりないのか?
宴が果て、梁山泊軍は城外の軍営へ帰っていった。
月が東京の街を照らしている。
呉用はたった今出てきた宮城を振り返り、そびえたつ城壁を見上げた。

戦いが始まった──と、呉用は思った。
新たなる戦いだ。今までの戦など無邪気に思えるほどの、困難で危険な戦いだ。
呉用は、“招安”を受けたわけではない。
彼は“梁山泊”を捨てることも、諦めることも──ない。
これからも、永遠に、梁山泊のためだけに生きるのだ。
「運命だ」
隣を行く花栄は、呉用の面差しの上に、神秘的な笑みが過るのを見た。
「我々は百八の星の転生──すべて天の定めた運命だ」
古来、新たな王朝を建てるのは、その前王朝の内部にいて、兵権を掌握していた者だ。劉邦は秦に仕え、曹操は漢に仕え、劉裕は晋に仕え、李淵は隋に仕えた。宋の太祖、趙匡允も前朝、周の将軍であった。
反乱軍は天下を取れない。天命を受けることはない。歴史がそれを証明している。
陳勝・呉広も、赤眉、黄巾、黄巣も、国を滅ぼす因にこそなれ、その役目を果たしたのちは滅びていった。
宋江は、何も知らない。知らずともよい。
(天は私に、この世で最も重い任務を与えたもうた)
天は──そして、晁蓋は。
呉用と花栄の目が合った。花栄は、少し困ったような顔をした。
「あんたが時々、どうにも分からなくなくなるね」
「なにがです?」
花栄は少し酔っていた。ゆらゆらと馬に揺られていく。
「あんたが、考えていることが──さ」
花栄は、何かを察していた。呉用は、何かをしようとしている。宋江に、“梁山泊”に、何かとてつもない運命を背負わそうと考えている──そう、漠然とした予感があった。
「あんたは元々、変わった人だが、なんだか神かがりすぎる。石版とか運命とか──実際、俺はたいして信じていないよ」
花栄はため息をつき、夜空を見上げた。星は無情だ。
「それでも、俺はついて行くがね」

空に、少し欠けた月が出ていた。
新曹門外の軍営に、寂寞の風が吹き過ぎる。
今夜、この世に“梁山泊”のない世界が始まった。
しかし、軍営の空にはためく旗は、やはり『宋』そして『梁山泊』の旗であった。
闇の中に、公孫勝がひとり佇んでいた。
夜空の中に、公孫勝はなにかの気配を感じた。風だった。
城壁の上に立つ黒衣の道士、その裾に、夜風が絡みついていた。
梁山泊軍営の火が、星座のように燃えている。
「──まあよい」

黒衣の道士は呟いた。
河北に覇を唱える晋王・田虎──その国師“幻魔君”喬道清。この度の戦のさなか、彼は田虎の命を受け、梁山泊に同盟を誘った。そして、以来、ずっと梁山泊の動静を監視していたのである。
梁山泊が同盟を断ることは、ある程度は予想していた。しかし、招安を受けるとは、やはり意外なことであった。
愚かなのか、賢いのか──喬道清は風をはらんだ袖を払った。
「まあよい。梁山泊よ、お前たちも、いつかは必ず叛する時がやってくる。お前たちにその気がなくとも、そうせざるを得なくなる」
その時こそ、互いにこの上なく強力な味方となるだろう。
敵中にいる味方ほど、心強いものはない。
「その時を、待っているぞ──梁山泊」
宴が果て、梁山泊軍が退朝しても、文徳殿には大臣たちが残っていた。
梁山泊の招安はなったが、今後、梁山泊軍ほどの軍隊をどう扱うかを決めることが急務であった。天子の御前で、まず宿元景が梁山泊の将たちに官職を与えることを奏上した。彼は誅殺の陰謀について高求たちを難詰したかったが、今となっては証拠がなかった。
「梁山泊軍の将に速やか官位を与え、一層、忠勤の励みとなすべきでしょう」
「それは、いかがなものでしょう」
宿元景の提案に、蔡京が難色を示した。
「梁山泊は招安を受けたといっても、その本心は改まらず、いつか必ず騒ぎを起こすに違いございません。軍を解散させ、それぞれの本拠に戻すべきと考えます」
高求も同意した。
「田虎、王慶、方臘の乱を抱えております。梁山泊が、獅子身中の虫となっては」
「そのようなことがあろうか?」
天子は宿元景、聞煥章の方へ目を向けた。答えたのは蔡京だった。
「こたびの梁山泊討伐に十節度使および官軍十三万を投入し、そのために、各地の防備が手薄となりました。その結果、田虎、王慶の反乱軍が大胆にも東京を伺うなどの事態を許したのでございます」
その言葉には、すべての作戦を立案実行した聞煥章を難詰するような口調が含まれていた。聞煥章は静かに耳を傾けている。
「私は梁山泊を征せよとの勅令を頂いただけ。田虎、王慶に備えよとは命じられておりません」
聞煥章は微笑んだ。
彼の作戦は枢密院が批准したものであり、童貫、高求も司令官として出陣している。聞煥章は、なにひとつ落ち度を作っていなかった。高求は蔡京に目配せした。
(敵にすべき男ではない)
蔡京も目顔で頷いた。
彼ら天子を操る四人の付き合いは長く、時には反目する時もあったが、自分たちの権力に対する損益の判断が食い違うことは一度もなかった。
折よく、宿元景が話題を変えた。
「高太尉。田虎、王慶軍の動きはいかが」
「節度使出陣の報、梁山泊帰順の報に、兵を退いたとの事でございます」
「方臘軍が動かなかったのが、不幸中の幸いであったな」
田虎、王慶軍が動くと同時に、童貫は方臘を牽制するため、江南方面に自ら十万の軍を率いて向かった。この軍は各地の軍を合わせ、可能な限り増員するつもりだった。
「方臘の叛乱軍は、童枢密の大軍に恐れをなし、本拠地に引きこもっております」
蔡京の言葉を、聞煥章が引き継いだ。
「このたび、方臘が動かなかった理由は、ひとつ」
「それは?」
「方臘は江南に呉国を建て、皇帝を僣称しております。淮水以北の土地に、野心はない──それだけです」
童貫の出陣の意義を正面から否定するような言葉に、居合わせた大臣たちは互いの顔を見合わせた。
そこへ、王都尉が一人の伝令兵を伴って入ってきた。
「枢密院への使者ですが、童枢密不在のため、こちらに直接伴いました」
使者は末席の床に平伏した。天子が尋ねた。
「その者は?」
「国境からの急使でございます」
高求と蔡京の顔色がさっと変わった。
千里を駆け通して来たと思われる埃まみれの使者は、上奏文を頭上に掲げた。宿元景が受け取り、天子の許しを得て読み上げた。
『国境に狼煙絶えることなし──』
それは、山西の某州知府からの救援要請だった。
正月来、契丹人の遼国が十万の兵をもって度々国境を侵し、山東、山西、河南、河北を脅かしている。わが山西の諸州でも、この秋の収穫は殆どが略奪しつくされ、婦女子や職人なども夥しく連れ去られた。何度も枢密院に援軍を要請しているが、いまだ返信は一度としてない。一体どうなっているのか──。
『救援なくば、遠からず漢土は蛮人に蹂躪されるべし』
文書は悲痛な一文で結んであった。天子は手ずから書面を取り、目を走らせた。
「なぜ、朕はこの事を知らぬ?」
「蔡京、童貫らは国境からの度々の救援要請を握り潰し、天子の御目を晦ませてきたのでございます」
冕冠の下、竜顔が俄に曇った。王都尉が傍らから何か囁いた。
「お上──今は」
「……分かった」
天子は怒りを収め、蔡京たちに向かい直った。
「そちらの罰は追って沙汰する。まずは、遼国の蛮人に苦しめられているわが民を救わねばならぬ」
宿元景が笏を手に、さらに一歩、進み出た。
「わたくしに良策がございます」

「申してみよ」
「梁山泊の者は兄弟も同然で互いに助け合っており、蔡太師の申すよう離れ離れにしようとすれば、かえって朝廷にとって災いを招くことになりかねませぬ。梁山泊軍が武勇無双の軍であることは確かなのですから、彼らをもって遼討伐に向かわせれば、これこそ朝廷に益の多いことでありましょう」
ここまでが、王都尉、宿元景らの“筋書き”であった。
軍功を上げれば官職を与える名分も立ち、梁山泊軍の朝廷内での地位も固まる。梁山泊軍が官軍内で重きを置かれるようになれば、自然、宿元景ら清流派の力も増大することになるのだ。
梁山泊招安、北方の国境の危機──ひとつずつ国難を取り除き、同時に朝政を四姦の手から天子のもとに返す。そして、彼らが天子を正しく補佐し、宋朝の社稷を守るのだ。
天子の心は動いたようだった。
「“燕雲十六州”」
沈痛な面持ちで呟いた。
燕雲十六州の回復──漢人二百年の悲願である。
かつて、南唐の将軍であった石敬塘は、契丹の援助で後晋を建国し、その代償として漢人の土地であった“燕雲十六州”を契丹に割譲した。その後、後晋が後周に代わり、宋が建ったが、契丹人に奪われた燕雲十六州の回復は未だかなわない。
また現実を見れば、平和を贖うために遼国に送っている歳幣も、年々、宋国の財政を圧迫している。莫大な銭と帛を贈り、国境を侵さぬよう約しているのだ。それなのに、蛮人は約定を違えているという。
「よろしい」
天子は、議論を収めた。
彼は、書画に優れた、感受性の非常に強い芸術家であった。即位以来、文化によって宋朝の歴史を輝かせようと望んできた。
しかし、今夜は昼間の閲兵の興奮が、まだ冷めやらぬ。繊細な詩人の心が、それゆえに、大いなる誇りの前に高鳴っていた。
(父祖の悲願を、朕の世にかなえたい)
静まり返る文徳殿に、威厳をもって宣言した。
「梁山泊軍に、遼国への出陣を命じる」
彼、趙佶は、大宋国第八代の皇帝である。
太祖以来、彼にいたる七人の先君たちの霊が、今まさに玉座のまわりに佇み、その一言を待っているように思われた。
「宋江を破遼都先鋒に、盧俊義を副先鋒とし──」
二百年の悲願の言葉を、趙佶はゆっくりと、重々しく、口にした。
「燕雲十六州を、奪回せよ」
文徳殿に万歳の声が響いた。
「よろしいのか?」
文徳殿から退出し、蔡京が高求に囁いた。高求は声もなく笑った。
「梁山泊も、つくづく運が悪い」
遼国への遠征だ。
天子の目の届かぬところで、枢密使たる童貫と、禁軍太尉高求の指揮下に動くことになるのだ。はるか北辺の地にいては、王都尉も、宿元景も手出しできない。
「梁山泊は、我々の手の内──ということです」
勿論、今回、彼の邪魔をした韓存保、豊美、党世雄らもただでは済まさぬ。
星の光が、文徳殿の屋根を照らしている。
降るような星空だ。銀河が空を横切っている。
一度は輝きを失いかけた高求の福運の星も、また眩く輝きだしたようだった。

宋国の北方──遼国の草原を、二頭の馬が駆けていく。
馬上には、秀麗な若者と、男装の少女が幸福そうな笑みを浮かべていた。
二人は『燕京』と額のかかった城門をくぐり、街の中心にある屋敷へ向かった。
豪壮な門をもつ屋敷である。今、その扉は開け放たれ、あたりは物々しい喧騒に包まれていた。兵士たちが慌ただしく出入りしている。門番が駆けだして来て、二頭の馬の轡を取った。
「お急ぎを、大将軍がお待ちです」
屋敷に入ると、金の鎧武者が斗篷を靡かせ、庭の向こうの回廊を去っていくのが見えた。少年の顔に緊張が走った。
「王の使者だ」
二人は屋敷を奥へ進んだ。従僕の声が響いた。
「天寿公主ならびに小将軍、ご帰還!!」
扉が開き、ひとりの将軍が現れた。身の丈八尺、堂々たる偉丈夫である。長剣を手に、華麗な甲冑を身につけていた。少年が足を早めた。
「──父上」

黄色の鬚、碧の眼の将軍は、黒髪で小柄な息子とは似ていなかった。
少年の父たる大将軍は、少女の前に頭を垂れた。
「姫君、婚約式は延期です」
その声は、慈愛と威厳に満ちていた。
「では、ついに?」
息子の問いに、碧眼の将軍は重く頷いた。
「戦が始まる──出陣の準備をしなさい」
※文中の「高求」は、正しくは です。
※文中の「楊晉」は、正しくは です。
※文中の「豊美」は、正しくは です。
※文中の「赫思文」は、正しくは です。
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